FEVER西村_Offshore山本 003

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アジアのバンド、減っている?

西村:初めて会った2012年からの6年間ぐらいの間で、アジアの変化をどう見てますか?音楽も然りアートも然り、生活の面でも然り。

山本:私、今、音楽主軸でアジアに行ってないと思うんですよ。友達がいるから、友達の近況を見に行ってるんだなと。友達の生活や考えの変化のほうが面白い。私自身も音楽にどんどん興味減ってきていると思うんですよ。

西村:それも山本さんの変化なんですね。

山本:そうです。だから、アジアがどう変化してるかとかは、全然客観的に見れてないですね。すみません。

西村:謝らなくていいですよ(笑)。たまたまアジアに友達がいるってことですもんね。

山本:アジアの友達に会って、芯が変わってないな、というところでホッとしたり。あと、日本みたいに環境が良い場所は、アジアで他にないですよ。FEVER10周年ってすごいです。他のアジアでは、何年も同じ場所の家賃を払い続けてスペースを維持することが本当に大変。家賃がどんどん釣り上がるし。

西村:日本は特殊ですよね。助かってます。アジアの他の地域では、人気で儲かってるお店だって噂が入ると大家さんが「じゃあ儲かってるんだったら来月から家賃(倍で)よろしくー」ってさらっと言われるとか聞きますよね。

山本:場所とかシーン、現象を追いかけると、結局どこかでストップするから、私は個人を追いかけたい。

西村:大きい動きでなく、コアな方を。

山本:そうです。そういう視点でインタビューを構成していくと、ネタが尽きない。西村さんは、アジアの変化感じます?

西村:自分がアジアに行き始めたのは、先人が行った後に遅れて行ってるんで、

山本:先人(笑)。

西村:遅れて行ってるけど回数は多いかもしれないです。でも、後追いですね。そうなると、いろんな地域はもうすでに都会になってる状況で行ってる。大きいビルの横に古い小さな民家が並んでたりする様子、そういうのはアジアどこでも見かける風景ですけど、それぞれの国の第一都市は都会のイメージのほうが勝っているような気もする。日本から出て行くようになって4、5年ぐらい経ったと思うんですけど、この4、5年で風景はあまり変わっていない感じはするから、この先どう街が展開してくのかは楽しみです。特に、音楽のことを主軸にして行ってるので、次それぞれの音楽シーンはどうなるんだろうと。レコード屋とかどんどん少なくなってる一方で、香港のWhite Noise Recordsは大きくなってたり。流通の状況も気になりますね。日本みたいに他の国の流通も良くなってきたら、AmazonみたいにポチッとCDを買えるようになるのかな?でも日本ぐらいですかね、Web上でCD買って家に届くっていうのは。個人運営レーベルがメールオーダーに応えて自分で郵便局行ってCD送る、っていうのは、他の国でもあるんだろうけど。

山本:今、アジアの変化という点でひとつ思いついたんですけど、日本以外はもうCDが必要じゃなくなってきましたね。私が最近困るのは、たまに雑誌とかで原稿依頼があるときに、「アルバム単位で紹介してください」って言われること。アルバム単位って、CD的な発想かなと私は思ってます。アルバム単位ではない活動が、アジアの音楽シーンで結構増えてる。「そういえばあのバンド何枚ぐらいアルバム出してるんだろう?」って思って特定のバンドのリリースを調べたら、ストリーミングが発展したこの数年全然リリースしてない、ってことがあるんですよ。フェスで大トリやるような中国のバンドが、そうだったりするんです。たぶんアルバムを作ることに予算をたくさん割いてなくて、ライブを多くやったり、単曲のストリーミング、MV配信をやってたり。なので、毎回雑誌の編集者さんに「ちょっと状況が違って、こうこうこういう状況なんですよね」っていう、カッコ書きをつけた状態で原稿納品したりします。これが、ここ数年のアジアでの大きな変化かな。

西村:例えば、日本ではCDが売れるから、アジアの他の地域のバンドが日本向けにCDをリリースする、とかはないんですかね?

山本:日本をマーケットとして見ていないと思います。中国のバンドは確実に。台湾とかだとわからないけど......、でも、台湾のバンドも、まずは中国のマーケットを見ると思うんです。

西村:韓国のイ・ランちゃんの日本版CDは、エッセイと合わせて豪華な仕様のものが出るじゃないですか。俺は大ファンだし買っちゃうんですよね。

山本:イ・ランさんの日本版CDは、Sweet Dreams Pressさんが丹精込めて作っててモノとして手に入れたくなるものだし、あれは買っちゃいますよね。
あと、もう一つ変化といえば思い当たることが。こないだ、雑誌STUDIO VOICEで、アジアの音楽特集号が出たんですよ。あの特集で確信したのは、ハードコアとかパンク、バンドミュージックっていうのが、アジア全体で減ってきているんだなと思いました。あの雑誌で紹介されたのは、ほとんどが一人で音楽作ってる人や、いわゆるベッドミュージックとか、クラブ音楽とか、非バンド音楽が8割以上だったと思うんです。前、私が韓国のドキュメンタリー映画『パーティー51』の上映をやっていたときに、上映後のトークで、パムソム海賊団のメンバーがこう嘆いてたんです。「今、韓国はHIPHOPばっかりが聴かれているから、僕らみたいなグラインドコアとかやってる人はもう、"絶滅危惧種"ですね」って。笑いながら言ってたんですけど、彼が言ってたのは正解で、本当にそうなってきたなあと思うんですよ。アジア全体でバンドが減ってきたなあ、と。もともとバンド音楽が好きなので、この傾向は気にかかってます。でも、東京はバンド減ってなさそうですよね?

西村:アジアをよく知ってる方と話すと、バンドが減ってて一人でやってる人が増えてるって、確かに聞きます。ただ、東京の中にいると、「バンド、日本で増えてるね」「東京のバンド増えてるね」って話になるんですよね。これは、ガラパゴスとはまた違う、感覚の違いというのか。合ってるような間違っているような......って自分も感じるんですけど。東京にずっといると、良いバンドが増えてきてる、という話に良くなるんですよ。強がりでもなんでもなく、直に感じる時もある。でも、アジア全体で見たときには、バンド形態で続けていくことって、なかなか難しいものなのかなと思ったり。

山本:そういうのも、さっき話した音楽国際会議とかで話題のひとつになればいいですね。アジアの音楽関係者同士で情報交換できるといいと思います。

山本佳奈子 プロフィール
ライター。アジアのメインストリームではない音楽や、社会と強く関わりをもつ表現に焦点をあて、ウェブzine「Offshore」にてインタビュー記事を執筆。不定期に発行している紙のzineでは、エッセイを書く。尼崎市出身。2015年から那覇市を拠点とし、沖縄アーツカウンシルにて2年半勤務。2017年9月から約10ヶ月間、沖縄県と福建省の交流事業を活用し、福州市にて語学留学。 https://offshore-mcc.net

2018年10月2日、那覇市 喫茶カラーズにて対談

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